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研究責任者・成松宏人が公開講座に登壇しました②

研究者の講演記録(後半)

神奈川県立保健福祉大学が5月21日(土)、「『健康』を見つめる」をテーマに、2022年度ヒューマンサービス公開講座(春期)を開催しました。本講座で、コホート研究の責任者であり、同大学院ヘルスイノベーション研究科教授の成松宏人が健康づくりの最先端の話題、コホート研究について講演した内容を、前半の記録に続けてご紹介します。※講演を基に一部加筆して作成。

講演タイトル「自分で自分の健康をデザインする社会を創る-神奈川みらい未病コホート研究の現場から-」

前回は、「病気は、遺伝(体質)と環境要因(生活習慣)が複雑に絡み合って発症する」とお伝えしました。つまり、病気を予防するためには、遺伝(体質)と環境要因(生活習慣)の関係から解き明かす必要があります。そのために、私たちが始めたのが「コホート研究」です。コホート(cohort)とは、集団という意味。ある集団がどんな食事をしているか、どんな運動をしているか、ほかの様々な生活習慣の情報も含めて、長期間追跡します。その方が何年後に病気になるのか、ならないのかについても、追い掛けていきます。

集団を追い掛ける期間は約35年にも及ぶため、時間だけでなく、手間やお金も非常にかかります。ですが、遺伝子とともにこれを突き詰めないと、病気の本質を明らかにすることが出来ません。10年ほど前に、私を含めて何人かの研究者がこのことに気づき、採血によって遺伝子の情報も把握する「ゲノムコホート研究」が日本の各地で立ち上がりました。

県西部でスタートした神奈川県みらい未病コホート研究

私たちが運営しているのは「神奈川県みらい未病コホート研究」で、2016年に県西部からスタートしました。これまでいくつかの自治体の健診会場などで参加を呼び掛けていて、最近ですと県立がんセンターの近くにある二俣川の運転免許センターに来る方に対してご協力をお願いしました。現在は県全域に研究のフィールドを広げており、協力いただいた皆様のゲノム情報と生活習慣を調べています。

健康診断などの会場で、一人ひとりにご協力をお願いして、参加への同意を得た上で、血液を採取させていただき、生活習慣についてのアンケート調査をして…と、コホート研究は非常に地道な作業の積み重ねです。そして、一度だけではなく長期に追跡していくことが必須。そのため、研究結果を世の中に還元していくのにも、大変な時間がかかってしまいます。

何とかこのジレンマを打破して、新しい研究成果をより早く社会にフィードバックしていくことができないか──。そう考えた私たちは、独自の新たな枠組み作りに挑戦しました。コホート研究の基盤を活用して、最先端技術を使った予防医療介入研究を行う取り組みです。これを私たち独自に「ハイブリットコホート研究」と名付けています。

「ハイブリットコホート研究」は日本でもまだ珍しい研究アプローチで、新しい研究成果をより早く社会実装につなげていくことが期待できます。私たちは、これを3年前から始めています。

遺伝子情報を活用した高血圧・肥満・介護の予防を

ここからは、コホートを基盤とした具体的な予防医療介入研究についてご紹介します。まず一つが、コホート研究のデータから開発した「疾患リスク予測アルゴリズム」を活用した高血圧・肥満予防への取り組みです。アルゴリズムとは処理手順のことで、これを使うことで、「高血圧になりやすい順位で100人中あなたは〇番目ですよ」という、リスクの高さを情報として、お伝えすることができます。単にリスクを伝えるだけでなく、地域の保健師さんにもチームに加わっていただき、生活習慣のアドバイスなども行っています。

肥満についても、関係する遺伝子や、肥満と食事の関係が少しずつ解明されてきているので、こうした情報を、皆様もよくご存じのRIZAPと共有して、一人ひとりの体質に合った、新しい肥満予防プログラムを作れるのではないかと検討しています。

また、ゲノムからは少し離れますが、コホートの基盤を使った介護予防の研究も始めています。一つは、よく知られているロボットスーツの「HAL」を使った研究です。腰に装着するタイプのHALを使って、フレイル(虚弱)、プレフレイルと診断された高齢者に対して有効な介護予防プログラムを開発するための研究が立ち上がっています。

健康アプリの効果検証、ブラッシュアップも

最近はスマホの健康アプリが増えていますが、習慣化アプリ「みんチャレ」を使った研究もスタートしています。このみんチャレ、5人で一つのチームを組んで、毎日写真やメッセージの投稿を通じて励まし合いながら習慣を続けていきましょうというアプリ。「歩く」ことを習慣化したいチームで、実際にどのぐらい継続できるのか、歩数や健康への影響などを調べていくという研究です。最初に神奈川県の職員を対象にテストを行ったところ好評だったので、現在は一般の県民の方に対象を広げて参加を呼び掛けています。

最後にご紹介するのが、神奈川県が開発した健康アプリ「未病指標」の研究です。アプリ上で認知や生活習慣など15項目の質問に答えていくと、自分は健康と病気の間のどの辺りにいるか、未病の指標が得点化されるというものです。このアプリの精度を高めていくために、現状出てくる数値は果たしてどれぐらい精緻なのかを検証する研究を、県と協力しながら行っています。健康診断だと年に1度しか調べませんが、このアプリは気になった時に何度でも点数を確認できるので、病気になる前の未病の段階で、医療と医療の間を繋ぐ役割を担っていけるのではないかと期待しています。

健康を自分でデザインする社会へ

ここまで、ゲノムに始まり、検診、ロボットスーツや健康アプリなど、健康づくりに役立つ様々な手段をご紹介してきました。今後も科学の力で様々な手段を開発して、皆さんにお届けしていきたいと思っていますが、お届けしたその後は、こうした手法を活用して、皆さんが健康をご自分でデザインしていける社会にしていきたい、そう考えています。

まず、ご自分はどんな人生を送りたいか、その生きざまを考え、そのために欠かせない健康はどうデザインしていくべきなのかを自分自身で考え、選び取っていく──。こうした社会を創るために、これからも科学技術の研究のみならず、研究の社会実装にも取り組んでいきたいと思います。

(構成:一般社団法人ハイジアコミュニケーション)

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